「荒肝」とは
「荒肝」は、「あらぎも」と読み、「きもったま、驚いたり恐れたりしない精神力、勇猛な心」を意味しますが、勢いが強く乱暴な状態である「荒々しい心」というネガティブな意味も持ち合わせています。
「肝(きも)」は、「肝が据わる」などというように、人間の心や魂が存在する器官と考えられており、「荒肝」は、勇しく強そうという意味の「たけだけしい心の状態」を表しています。
- 以外にもあの弱々しく見える若造が山賊の荒肝を拉いで、村人を驚かせた。
- 抗議のために部屋の前まできたが、彼のその一言で先ず我々の荒肝を拉がれた。
- 敵陣を守っている兵士の荒肝を抜く作戦を考える。
- 猪の荒肝を抜く風の音/ 宇多 喜代子(著)
などのように使われます。
「荒肝」の「荒」には、「たけだけしい、勇猛」という意味があります。
「肝」には、「胆力、気力、精神力」といった意味合いがあり、東洋医学において、判断力や計画性などの精神活動を支配しているとされています。
ですから、「荒肝」は、「恐怖心を見せることなく苦痛や危険に立ち向かうことのできる精神や不屈の精神と決断力」のある状態を指している言葉と言えます。
「荒肝」の類義語には、「気概」「度胸」「肝っ玉」などがあります
ところで、「肝(きも)」は昔から、気力や精神力の元とされており、「肝」がどれくらい強いのか試す肝試しについて、少なくとも平安時代後期の「大鏡」に書かれています。
花山天皇が藤原兼家の3人の息子に肝試しをさせるという物語です。
夜中、鬼が出ることで有名な屋敷に出向く息子たち3人でしたが、唯一、肝試しを最後までやり遂げたのは藤原道長で、証拠にその屋敷の柱を刀でけずり持って帰ってきたという話です。
摂政まで上り詰めた道長の若き日の豪胆さを示す逸話を残してある、ということは、当時から肝が太い人物かどうかが、人物評価の基準になるほど重要だったのかもしれませんね。
「荒肝」の使い方




「荒肝」の例文
- ・・・おれのべらんめえ調子じゃ、到底物にならないから、大きな声を出す山嵐を雇って、一番赤シャツの荒肝を挫いでやろうと考え付いたから、わざわざ山嵐を呼んだのである。おれは
- ・・・尻まで斬り下げられ、文字通り両断された。臓腑をぶちまけ息絶える朋輩に、さすがの能島村上の兵も荒肝をひしがれた。
- ・・・この女は舞踏に着て行く衣裳の質に入れてあるのを受ける為めに、こんな事をしたということが、跡から知れた。同国人は荒肝を抜かれた。 ・・・森 鴎外(著)「ヰタ・セクリアリス」
- ・・・青てかの道心頭をも顧みず、女のなまめいたどてらをひっかけて、蛤鍋かなんかをつつきながら、しきりと女に酌をとらせていたものでしたから、右門は大声に叱咜すると、まずその荒肝を拉ぎました。・・・佐々木 味津三(著)「右門捕物帖 六」
「荒肝を抜く・荒肝を拉ぐ」とは?

「荒肝を抜く」は、「荒肝を拉ぐ」と同義語で、「強い相手をひどく驚かせ恐れさせる、手ごわい相手をふるえあがらせる」という意味の慣用句です。
「荒肝を抜く」は、「あらぎもをぬく」と読み、「荒肝を拉ぐ」は「あらぎもをひしぐ」と読みます。
「荒肝を抜く・荒肝を拉ぐ」の「~抜く」や「~拉ぐ」には、「勢いや力をなくす。勢いをくじく」という意味があるので、「荒肝のたけだけしい心の勢いをくじく」状態になるほど驚きぞっとしたという意味合いになります。
ぞっとするの「ぞっと」は、「寒さや恐ろしさで身の毛がよだつ・からだが震えあがるさま」を表す語です。
「たけだけしい状態」の人をぞっとさせるほどの出来事ですから、よほどのことが起きたのかもしれません。
ところで、「肝」を用いて、「驚いた」状態を表現する他の言葉には、「肝を冷やす」「肝を潰す」もあります。
「肝を冷やす」は、「驚き恐れて、ひやりとする」ことで、危険だったり衝撃をうけたり、恐がるような驚きが起きたときに使われる言葉です。
また、「肝を潰す」は、「突然のことで非常にびっくりする」ことで、異常事態や予想外の悪い出来事があって、結果に仰天する様子を表わしています。
参考文献
- 編 山田忠雄・柴田武・酒井憲二・倉持保男・上野善道・山田明雄・井島正博・笹原宏之 (2012)『新明解国語辞典』第七版, 三省堂.
- 監 林 四郎 編 篠崎 晃一 ・相澤 正夫・大島 資生(2021)『例解新国語辞典』第十版, 三省堂.
- 編 柴田武・山田進 (2002)『類語大辞典』講談社.
- 編 藤堂明保・松本昭・竹田晃・加納喜光 (2011)『漢字源』改訂第五版, 学研.
- 著 鎌田正・米山寅太郎(2013)『新漢語林』第二版, 大修館.
- 編 松村明・三省堂編修所(2019)『大辞林』第四版.三省堂.
- 公益財団法人日本漢字能力検定協会.「漢字ペディア」.<https://www.kanjipedia.jp/>(参照日2024年11月22日).
- 小学館.「デジタル大辞泉」. <https://dictionary.goo.ne.jp/jn/>(参照日2024年11月22日).